長い間スウェーデンデザインをリサーチしてきて、いいものにたくさん出会ってきました。そんな中でも、特に思い入れのあるスウェーデンデザインとして、その背景を理解しながら、皆さまに使っていただきたいものがあります。今では数多くの北欧デザインが日本に入っていますので、ご存知の商品も多いと思いますが、デザイナーやメーカーから直接話しを伺い、一部の商品展開にも関わった者として、商品の背景についてより詳しくご紹介をしたいと思っています。どんな背景があってこの商品が生まれたのか、メーカーのこだわりは何なのか、そのことを知っていただいた上で使っていただくと、愛着もいっそう高まるのではないでしょうか。
アルメダールスについては当サイトでも時々ご紹介させていただいていますが、2005年9月のメルマガでご紹介した記事がわりと詳しいです(ただしここで紹介している商品は廃盤になっているものもあります)。今では日本でもかなりたくさんのアルメダールス商品が入っていますね。実はストックホルムでこの商品の品揃えが豊富なショップがあまりありませんが、しいていえばオリエンスシティー(Åhléns city)の品揃えがまずまずです。
アルメダールスは1846年に西南スウェーデンのヨーテボリ近郊でリネン織業を創業したことから始まります。創業者の娘のアルマの名前が社名になり、今ではその地区はアルメダールと呼ばれています。代表作は「ハーブポット」と呼ばれるアストリッド・サンペが1955年にデザインしたもので、スウェーデン語ではPersons kryddskåp(パーションのハーブポット)といいます。パーションとは著名な陶芸家シグネ・ペーション・メリンのことで、彼女が50年代に作ったハーブポットを見たサンペが、テキスタイルのデザインに採用しました。アルメダールスは1955年の4月に「リネン・ライン」というコレクションを発表し、同年にヘルシンボリで開催されたデザイン博H55に出展しました。H55はスウェーデンのデザインが国際的に認められるようになる上での大切な博覧会で、斬新なプリント技術を使ったハーブポットは大変な人気を博しました。50年の時を経て、アルメダールスはハーブポットの復刻版を発表し、大きな成功を収めています。
アルメダールスの使命は、昔ながらの素晴らしいスウェーデンデザインを次世代に伝えていくことです。アルメダールス商品のモチーフが、ミッドセンチュリー時代のものが多いのもそれが理由です。時々新しいデザイナーも発掘していますが、メインは昔ながらのデザインを使うことです。同じくミッドセンチュリーに大活躍をしたマリアンネ・ウェストマンのデザインを積極的に採用しているのもそのためです。
高齢であまり人に会いたがらないマリアンネさんを何度も訪ね、時には仕事を忘れてただお話しを聞き、時間をかけて地道に説得をしてついに復刻版の承諾を得たそうです。マリアンネさんはあくまでもオリジナルに近い色合いを要求し、アルメダールスはそれを実現することに苦悩したそうです。ペイントのニュアンスをプリント技術で表現することは至難の技でしたが、アルメダールスは努力を重ねてそれに成功しました。下記の画像は左がキッチンタオル、右が本物の陶器のピクニックシリーズです。よく見ていただくと分かるように、キッチンタオルの野菜の色にペイントした筆の跡が残っているような微妙なニュアンスがきっちりと表現されています。ここまでやらなければ、マリアンネさんの承諾は得られなかったと言います。そしてこのシリーズも、大きな成功を収めています。