7月12日に、スモーランド地方にある老舗ガラスメーカー、オレフォスが工房を閉鎖しました(スモーランドの地方紙Barometern-OTの記事)。1898年創業の100年以上続いたスウェーデンの伝統工芸がひとつ消えていきました。スモーランド地方はガラスの王国としてオレフォシュを筆頭に数々のガラス工房があります。ツーリストにも人気のスポットで、あちこちの工房を訪ね回ってガラス制作の現場を見学したり、できたてのガラス製品を物色したり、熱い工房でヒットシルというお料理を楽しんだり、スモーランドの美しい自然の中に身を置いてのんびりしたり。
そのように長いこと親しまれたスウェーデンガラスの老舗ブランドがなくなりつつあります。昨年から買い手を探していたようですが、未だに確実な買い手が見つかっていないようです。オレフォシュのブランド名は残るとのことですが、今後はいったいどこで作られるのでしょうか。あの美しいガラスは、スモーランドの森だからこそ、そして名職人だからこそ作れたものです。
スウェーデンに限らず、世界的にも伝統工芸が立ち行かなくなっています。大量生産の安価な生活用品が出回るようになり、忙しい毎日を過ごしながら、人々は日々の暮らしをていねいに過ごすことを忘れてきているようです。ある年配のスウェーデン女性は、結婚祝いにもらって大事にしてきた12セットのオレフォスグラスを娘に譲ろうとしたところ、そんな手のかかる高級グラスはいらない、と言われたそうです。若い世代が伝統工芸の価値を分からなくなっているのです。
グローバル化が進み、国々の境界線が薄れてきた今、その土地らしいデザインが分かりづらくなってきています。そんな中でも地方の伝統工芸こそ、その国ならではの価値のあるデザインなのです。オレフォスのガラスもそのひとつです。これはスウェーデンのスモーランドで職人が手作りするからこその伝統工芸のガラスです。製造地や職人が変わったら、全く違うものになってしまいます。オレフォシュのブランド名が残っても、大量生産なんてことになったら、もうオレフォシュではなくなってしまいます。オレフォシュの今後はいったいどうなるのでしょうか。
以下は2004年にジャパンデザインネットに投稿したオレフォスのリポートです。この工房がなくなってしまったことは、本当に悲しいことです。
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スウェーデンガラスは国際的に有名だが、このガラス製品のほとんどは南スウェーデンのスモーランド地方で作られている。スモーランドは森と湖に恵まれているため、豊富な木材を燃焼させて作るガラスの製造に適していたため発展したのだ。今ではこの地方のヴェクショーとニーブロという街の間に14ほどの工房が散在している。この中でも最も人気の高いガラスメーカー、オレフォスについてご紹介しよう。
オレフォスとはこの地区にある街の名前でもあり、今ではガラスメーカーとしてその名を世界的に広めている。オレフォスが創設されたのは1898年で、1726年からの鉄工所が元になっている。1998年に創設100周年を迎えたオレフォスは、世界中でアートガラスの展示会を行い、翌年、すでに人気ガラスデザイナーであったインゲヤード・ローマンを迎え入れた。
ストックホルムの街中のいたるところにクリスタル、ガラスショップがある。その中でも、オレフォスやコスタボーダはよく目にする人気ブランドだ。繊細で美しいデザインは見ているだけでも満足できるほどすばらしいが、そんなエレガントなガラス製品を実際に作っている場面を目にすると、より感動的である。憧れのガラスが作られているところの一部始終を見ると、ガラス製品に対する愛着もますます高まるのだ。
オレフォスのガラスはほとんどが手作りなので、作品のひとつひとつが異なる。その中で厳正に審査が行われ、完璧なものだけがファーストクラスとして出荷される。手作りなだけにちょっとした失敗はつきものだ。工房にはそんなセカンドクラスの製品がたくさんあり、憧れのシリーズがかなりのお手ごろ価格で手に入るのがうれしい。ファーストクラスには手の出ない人たちも、セカンドクラスならシリーズで揃えることも夢ではなさそうだ。
ガラス工房では常時高熱が使われているので、その熱を利用した特別料理がある。各工房で体験できる「ヒットシル」と呼ばれるこの料理は、高熱の釜でグリルされたビュッフェ料理である。暑さの残る工房内で、汗をかきながら食べる熱々のシル(塩漬けニシン)や厚切りのベーコン、ベークドポテトの味は格別だ。飲み物はもちろん、スナップスという40度もあるアクアビット(ジャガイモの焼酎)で、工房で作られたばかりのスナップスグラスで歌を歌いながら飲むのが正当だ。冷たいビールやワインも最高の味で、隣に座った人々が皆仲間のように盛り上がって楽しいひと時を過ごすことができる。飲み終わった後のワイングラスを持ち帰れるのもうれしい。