ヨセフ・フランク(1855-1967)は、スウェーデンの老舗テキスタイルブランド、
スヴェンスクテンのデザイナーとして著名な、オーストリア出身の建築家です。
スヴェンスクテンでは、160を超える美しいパターンと
2000の家具デザインを手がけ、今でも多くのスウェーデン人を魅了しています。
Svenskt Tenn
私にとってのヨセフ・フランクは、スヴェンスクテンのデザイナーとして
数多くの素晴らしいテキスタイルと家具をデザインした人という印象ですが、
元々はオーストリアの著名な建築家として、数々の仕事を残しています。
スヴェンスクテンでは、建築家としてのヨセフ・フランクの情報はほとんどなく
彼がどのような仕事をしてきたかを知る由はありませんでしたが、
このたび、ストックホルムの建築博物館(Arkitekt Museet)で開催されている
ヨセフ・フランク展では、知られざる彼の仕事ぶりを見ることができます。
ヨセフ・フランク展は「Against Design」という、
当時のデザインのルールに反した仕事ぶりにフォーカスしています。
建築家、家具デザイナー、カラフルなテキスタイルデザインまで
ヨセフ・フランクの生涯の仕事をトータルに集めた展示です。
ヨセフ・フランクは、1855年にオーストリアに生まれ、
ユダヤ系の家族とともにウィーンで暮らし、建築工業大学で学びました。
その後、森の墓地を設計したシーグルド・レーヴェレンツらと共に
ベルリンで建築の研修を受けます。
研修後はウィーンに戻り、建築家として独立し、数々の仕事を残しました。
この展示会でもうひとつ気になった言葉は
「アクシデンティズム/Accedentism」です。
ちょっと聞いたことのない表現ですが
「偶然主義/因果関係を否定し、偶然に起こること」
という意味のようです。
機能主義のパイオニアと言われ、
機能的で合理的なモダニズム建築に関わっていましたが
その厳格な姿勢に、徐々に違和感を感じるようになりました。
もっと柔軟で、厳格さを持たない建築を追求し、
「偶然性」を受け入れて、遊び心のあるデザインを表現していきました。
機能主義の思想を持ちながらも、それに限定されることなく
柔軟で理論を限定しないアプローチにより
インテリ層にも教養を持たない層にも受け容れられ、
良いも悪いも取り入れた建築やデザインを目指しました。
ヨセフが目指したデザインは、今ではますます注目を浴びています。
ヨセフ・フランクの建築は、機能主義的な建物が主流ですが
その細部には、機能主義だけでは表現できないような
彼らしい柔軟なデザインが感じられます。
Ark Des
インテリアにもこだわる多くの建築家同様、
ヨセフも数多くの家具デザインを手がけています。
第二次世界対戦の混乱と、ユダヤ系の人々への圧力が強まる中
1933年にヨセフ・フランクは、妻の故郷であるスウェーデンへと移住します。
スウェーデンで出会ったのが、スヴェンスクテンの創業者である
エストリード、エリクソンです。
エストリードはヨセフの才能に惚れ込み、デザイナーとして採用します。
Svenskt Tenn
第二次大戦中、スウェーデンにいてもなお
ユダヤ系として身の危険を感じたヨセフは
妻とともに1941年にニューヨークに移り住みます。
ヨセフは、スヴェンスクト・テンに描いた
160のほとんどのテキスタイルデザインを
ニューヨークの地で手がけました。
戦後の1946年に、ヨセフは妻とともにスウェーデンに戻りました。
その後もエストリード・エリクソンとの仕事を続け
スヴェンスクテンに数多くのデザインを提供しました。
その後建築の世界に戻ることはなかったようです。
ヨセフ・フランク展では、たくさんのオリジナルスケッチも展示されています。
プリントされた生地で見慣れたオリジナルスケッチを見るのは
本人が描いているところが目に浮かんできそうで、
ついつい何度も見入ってしまいました。
シンプルな中に温かみの感じられる
ヨセフ・フランクの家具は、多くの人々を魅了し続けています。
スヴェンスクテンについては、オールアバウトに記事がありましたので、リンクさせていただきます。
スウェディッシュデザインの老舗、スヴェンスク・テン/Svenskt Tenn