今年はスウェーデンと日本の外交関係樹立150周年の年にあたり、さまざまなイベントが企画されています。ストックホルム市内のユールゴーデン島の端っこの方にあるティールスカ・ギャラリー/Thielska Gallerietでは、ジャポニズム展が2月17日から6月3日まで開催されています。
ジャポニズム展では、浮世絵や刀のつば、印ろうなどの日本の工芸品と、ジャポニズムの影響を受けた1900年ごろのスウェーデンアーティストの作品が展示されています。
先日「芸術と工芸における日本の美」というセミナーが行われ、スウェーデンで日本の美がどのように伝わったのか興味もあって聞きにいってきました。
ジャポニズム展のキュレーターであるエリザベス・ヤナギサワさんによるセミナーでは、わびさび、幽玄、粋、もののあはれ、といった日本の美的理念に焦点を当てていました。紫式部の源氏物語、清少納言の枕草子についても説明され、なかなか奥深い内容が印象的でした。このような美的理念は、その人の理解の中にあり、表現方法は人によって異なるのではないかと思います。日本の美的理念を、当時のスウェーデン人アーティストがどのように表現したかが興味深いですね。
日本の開国後、19世紀半ばの万国博覧会への出品をきっかけに、浮世絵などの日本の美術が西洋のアーティストたちに大きな影響を与え、ジャポニズムと称されました。ゴッホが歌川広重の「名所江戸百景」をかなり正確に模写しています。西洋美術とは全く異なる手法が、アールヌーボーにも影響を与えました。
左が広重、右がゴッホ
ゴッホが模写した漢字の字体が面白い
1860年代にヨーロッパに伝わった日本の工芸品は、アーティストやコレクターを魅了し、浮世絵などの木版画は特に人気を集めました。スウェーデンのアーティストたちは、まずパリで日本の工芸品に出会い、強い印象を受けたようです。
スウェーデンと日本の外交関係が1868年に樹立され、1890年代には双方の接触が積極的に進められました。1911年には大規模な日本アート展が開催されたそうです。スウェーデンの巨匠カール・ラーションは、1919年に日本は私にとっての母国であると表現しています。美術品コレクターでありティールスカ・ギャレリー創設者であるアーネスト・ティール/Ernest Thielは、日本の木版画などを所有していました。
今回のティールスカ・ギャレリーのジャポニズム展では、1900年ごろの西スウェーデン、ヴェルムランド地方のアーティストらがジャポニズムから影響を受けた作品を展示しています。彼らはスウェーデン、ヨーロッパ、日本の技法を組み合わせ、新しいアートを生み出しています。作品は絵画、木版画、陶芸、織物などさまざまです。
ヴェルムランド地方の画家Bror Lindhが1906年に描いた油絵「雲」
ヴェルムランド地方の画家Bror Lindhが1910年代に描いた油絵「桜の枝」
ヴェルムランド地方の画家Gustaf Fjæstadが1909年に描いた油絵「月あかり」
ヴェルムランド地方の画家Maja Fjæstadが描いた水彩画「デルフィニウム」
ヴェルムランド地方の陶芸家Himla Persson-Hjelmが1914年に月桂樹の葉をモチーフにした作品
ヴェルムランド地方の陶芸家、Himla Persson-Hjelmの作品(1903年)
家紋帳からインスピレーションを得た作品
日本は江戸時代に鎖国し、海外との交流を制限すると同時に、日本国内の文化を高めていきました。それは海外の影響を受けない独自性の高いもので、真面目な日本人のこだわりにより、素晴らしい発展を遂げました。開国によって海外に流出し、その美しさに魅了されたアーティストがたくさんいるのです。
この現象は今でも続いているように思います。日本国内独特の発展について「ガラパゴス化」と言いますが、これは決して悪いことだけではないようです。日本人の高い要求とこだわりをもって日本独自に発展することにより、他の国より優れたものが生まれることがあるからです。日本の生活雑貨の質は、どこの国よりも優れています。
北欧デザインの真髄は、日本のわびさびに見るミニマリズムに似ています。最も美しいものは、余計なものを省いた究極にシンプルなデザインであるという、北欧と日本の美に共通点を感じます。そして北欧と日本の美の相違点は色使いです。太陽の照らない季節の長い北欧では、自然が醸し出す明るい色彩を好みます。一方日本では、色彩は自然素材に近い色を好み、陰影で変化を表現します。どちらの美も神秘的で、これからもますます魅了されていきそうです。
ティールスカ・ギャラリーは美術品コレクター、アーネスト・ティールの元邸宅でもあり、コレクションに囲まれて暮らしていた様子が見られるようなギャラリーです。このギャラリーについては、下記にてご紹介しています。