私はスカンジナビアン・パターン・コレクションというパターンに特化した事業に関わっていることもあり、パターンには大きな関心があります。スウェーデンではさまざまな美しいパターンを目にしますが、Livstycketのパターンを目にした時はちょっとした衝撃を受けました。
なぜなら、このパターン事業は社会貢献に絡んでいるからです。人の役に立ち社会の役にも立つ、ウィンウィンのアイデアに感銘を受けました。
デザイン大国のスウェーデンは、見た目のデザインが良くなければ売れないと考えていますので、何よりも美しいデザインを作り出すことに力を注いでいます。
Livstycketのパターンデザインを作り出しているのは、スウェーデンに移民した女性たちです。その多くが情勢の不安定な国から来た難民で、ほとんど教育を受けていない女性たちです。Livstycketはそんな移民たちにスウェーデン語を学んでもらいながら、裁縫、刺繍、テキスタイルプリントの技術を教え、オリジナルデザインのテキスタイルを一緒に作り出しています。
オリジナルデザインのスケッチを起こすのも移民女性たちです。テーマを決めてパターンを起こしたり、女性たちがストックホルム市内や郊外を訪ねてその景色をスケッチをし、そのスケッチからプロのデザイナーが美しいパターンに仕上げていきます。
先日行われた春のマーケットでは、元気のでる明るい色合いのテキスタイル雑貨が多くあり、そのデザインを見ているだけで幸せな気分になりました。
そのパターンにはひとつひとつにはさまざまな背景があります。ここもちょっと衝撃を受けたのですが、Livstycketのパターンは危険地区から避難してきた女性たちの苦悩や現実をモチーフにしたものもあるのです。辛い状況から抜け出すため、必死になって美しいパターンを作り上げることで、希望がみなぎってくるように思います。
いくつか気になるパターンをピックアップしてみました。
Livstycket
レディースウェア(女性たちを応援)
タイトルにもなっている「Livstycket」とは、もともとは上記パターン柄のようなレディスウェアを意味しています。このパターンはLivstycketの基本方針の思いを込めて作られています。
Livstycketは人々が安全で安心できる場所で過ごし、人々が出会い、希望に満ちて暮らせることを願っています。参加者全員がスウェーデン社会に溶け込み、希望と誇りを持って生きていけるよう願いながら、このテキスタイルデザインが作られました。
The whole world in one bag
バッグひとつが世界のすべて
今の時代、世界中で起きているテロや戦争のニュースを聞かない日はありません。スウェーデンに避難してきた人々は、たったひとつのバッグに入るものだけを詰めて逃げてきました。避難生活は、たったひとつのバッグから始まります。何を持って何を手放すのか。避難者たちがどんな思いでひとつのバッグを最後の荷物を詰めて逃げてきたのか、そのストーリーがひとつひとつのバッグに詰まっています。バッグに込められた思いはそのままスウェーデンに降り立った初めの思い出につながります。人々の思惑のこもったさまざまなバッグをモチーフに、テキスタイルデザインが作られました。
We drink tea and learn the letter E
お茶をいただきながら文字を習う
読み書きを学ぶことは人々の権利です。世の中には9億人が読み書きができず、そのうちの6億人が女性です。Livstycketに参加している移民女性の25%は読み書きができません。読み書きができないと社会参加が困難です。Livstycketでは、お茶を飲みながら文字を学ぶ、読み書きプロジェクトを企画しました。その様子をモチーフにテキスタイルデザインが作られました。
Hats on for the world’s women
世界の女性たちの帽子
帽子はおしゃれな女性たちにとって必須のアイテム。世界中の女性たちの関心の的である帽子にはさまざまなデザインがあります。美しい帽子をモチーフに、テキスタイルデザインが作られました。
Livstycketのテキスタイルデザインは、ウェブサイトをご覧下さい。
Livstycketウェブサイト(英語)
私が関わっているスカンジナビアン・パターン・コレクションは、プロの独立したデザイナーがひとつひとつパターンを作り上げています。Livstycketのように、プロジェクトとしてみんなでひとつのパターンを仕上げているわけではありません。プロジェクトはひとりひとりであり、ひとりである自分の中にあるさまざまな思いからさまざまなパターンが作り出されています。
そう考えると、ひとつひとつのパターンに感謝の気持ちが込み上がってきます。
世の中に北欧風パターンが増えている中、パターンだけを売るのが難しくなってきています。一方、パターンが生み出される北欧のライフスタイルや、パターンを生み出す時のデザイナーの思い入れを伝えることで、より本物の北欧パターンの良さを伝えられるようになってきたと感じています。
北欧のライフスタイルの感じられる、デザイナーの心のこもったパターンを提供することに、これからも力を注いでいきたいと思っています。