ストックホルムで最も美しいといわれる美術館ティールスカギャラリーにて、スウェーデンを代表するテキスタイルブランド、ヨブス展が開催されています。
美しい花柄がモチーフのプレートやタイルテーブル、ハンドプリントのテキスタイルによるホームインテリア、ヴィンテージテキストが一堂に集められています。多くは個人所蔵品で、これだけのヨブス作品を一度に見られるのは滅多にないチャンスです。
この展示会のキュレーターを務めたのはノーベル賞のフラワーアレンジを長年担当した、スウェーデンの著名フラワーアーティスト、グンナル・カイ氏です。カイ氏はダーラナ出身で、ヨブスのテキスタイルに親しみながら暮らしています。
自然をモチーフにしたテキスタイルは、カイ氏が手がけるフラワーアレンジにも影響を与えています。展示会の入り口にテキスタイルとともに飾られた花はカイ氏によるアレンジで、まるでヨブスのテキスタイルデザインから飛び出してきたかのようです。
ヨブス姉妹はもともとは陶芸家であり、のちにテキスタイル制作を手がけ、ファミリービジネスであるヨブス・ハンドプリント工房/Jobs Handtryckを設立しました。ヨブスのテキスタイルは、スウェーデンのホームインテリアを彩るデザインとして、多くのスウェーデン人に親しまれています。また、ミッドセンチュリー時代のテキスタイルは、ヴィンテージとして価値を高めています。
リスベット・ヨブス/Lisbet Jobsとゴッケン・ヨブス/Gocken Jobs姉妹は、ダーラナとスモーランドをルーツにもつアーティストで、1920年代に家族でストックホルムに移り住みました。
姉のリスベットはストックホルムでアートを学んだあと、1931年にセーデルマルムに陶磁器の工房をオープンしました。当時、自身の工房に電動の窯を設置した女性はリスベットが初めてでした。自分の窯を持つことで、心置きなく好きな作品作りに励むことができました。
ゴッケンはヨブス家7人兄弟姉妹の末っ子で、本名はイングリッドです。ゴッケンとはドッカン/Dockan(人形の意味)から派生したニックネームです。姉のリスベットと同様にアートを学び、リスベットのアシスタントとなりました。
ヨブス姉妹は、1930年代にはトレンドセッターとして公共施設の装飾も任されるようになりました。
スウェーデンや国際的な展示会にも出展し、1939年のサンフランシスコとニューヨークの展示会では国際的にも注目を浴びました。
第二次大戦の時代には物資不足となり、釉薬を手にいれるのが困難になったため、それまで陶磁器に描いていた花のモチーフを、テキスタイルデザインとして描き始めました。
テキスタイル制作のアドバイスをしてくれたのは、その時代にストックホルムの老舗デパートNKのテキスタイルを担当していたアストリッド・サンペです。サンペは最新技術のテキスタイル制作に熟知しており、ジョブス姉妹はスクリーンプリントで新しいデザインのテキスタイルを作り出していきました。
ヨブス姉妹がテキスタイルデザイナーとして躍進したのは、1945年の春にNKデパートで開催されたヨブス姉妹のインテリアテキスタイル展示です。「美が街にやってきた」というテーマで出展されたのは、カーテン、椅子カバー、クッション、テーブルクロス、タイル、絵やプレートです。
そのころスウェーデンではミニマリズムがトレンドであり、建築やデザイン界では機能主義が主流になっていました。そんな時代でも自然をモチーフにしたハンドメイドの商品を求める声も多かったのです。
戦争の時代が終わり、平和を求める人々にとって、ヨブス姉妹が作り出す美しい花柄やフォークロアをモチーフにしたノスタルジックなパターンは、人々の心をいやしました。
1940年代に、リサベットは夫とともにストックホルムを離れてダーラナに移り住むことに決め、ゴッケンや母親や他の兄弟たちもダーラナに移り、ヨブス家はレクサンドにハンドプリント工房Jobs Handtryckを設立しました。これが今でも続くヨブス家の事業となりました。
ヨブス姉妹はダーラナでの伝統的なアートやシーンに魅了されました。冠婚葬祭の様子、民族衣装、伝統工芸、アートペイントなどなど、ダーラナには美しいデコレーションがたくさんあったのです。
ヨブス姉妹はダーラナの自然やフォルクロアなどをモチーフにしたテキスタイルをたくさん作り出しました。
特に自然の形状を忠実に描くことにこだわっています。森や牧草地に育つ小さな木や枝の伸び方、花の咲いている様子、葉の形など、植物の細かい部分に気を配りながら、それをデコレーションに仕上げていきました。
まるでそこの花が咲いているような生き生きとしたヨブスのテキスタイル。スウェーデン人の家庭にひとつはあるであろうヨブスのテキスタイルは、スウェーデンの人々にとっての心の故郷です。
ヨブス姉妹展は2月23日より6月2日まで、ティールスカギャラリーで展示されています。
ヨブス工房と、ティールスカギャラリーにつきましては、下記の記事もご覧ください。