今回の秋の北欧インテリアフェアFormex、
どこに行っても何を聞いても、誰もが口にしたのが「サステイナブル/持続可能」。
今に始まったことではありませんが、ほぼ誰もが同時にこれだけ口にするのは最近のトレンドのようです。
会場レイアウトも新たになりましたが、出展そのものに大きな変化はなく
印象的にはそれほど変わっていません。
とはいえ、デザイントークやトレンドに関する情報はとても有意義なものが多かったように思います。
どちらかというと、新商品を探しに行くというより
トレンドや新情報を見つけにいく場所になりました。
モノがあふれている時代、新しいものはもうお腹いっぱいで
以前ほど新製品に魅力を感じることはなくなりました。
ではフェアで何が人を惹きつけるかというと、情報ではないでしょうか。
ゲスト・インフルエンサーのリリー・エデルコート/Li Edelkoortさんのセミナーは
ほぼ満席という盛況でした。
「アニミズム/精霊信仰」にインスピレーションを得て
twig/小枝、seedpod/タネ、moon/月、wave/波、
feather/羽、animal/動物、pebble/小石、shell/貝殻という
8つのエレメンツに分けた展示を行いました。
リーさんは、戦後の1950年生まれだそうです。
何もない時代に育ったからこそ
想像力を生かしていろいろなことを考えたそうです。
その経験が今でも役立っていて
何もない時代に生まれたことをラッキーだったと言います。
「私たちはすべてのものに対して、敬意を表するべきです。
モノのあふれる時代だからこそなお、
自分が手にするものすべてに、感謝の思いを持って接しましょう。
コーヒーを一杯いただくにしても、そのコーヒーの味
コーヒーカップ、すべてをきちんと観察してみましょう。
すべての事柄には精霊が宿り、意味があります」
エントランス展示の8つのエレメンツはモノの原点であり
展示品は、木や羽や石やガラスなど、素材感のあるものばかりです。
展示品を見ながら素材の本質を感じ、
スピリチュアルな体験を提供しています。
モノにあふれた時代、自分は何を必要としているのか。
手作りのスプーンの美しさ、錬鉄製のトースターの力強さ、
ろうそくの香り、キッチンタオルの柔らかなタッチなど
モノが私たちの生活の新しい命を与え、私たちの生活の一部になります。
ゆっくりとモノの本質を感じながら、
自分が必要としているものを心から感じ取りましょう、
たくさんのモノを持つのではなく
本当に気に入ったモノを厳選して持つようにしましょう、
というメッセージを感じました。
「アニミズム/精霊信仰」は、宗教信仰が始まる前のもっと原始的な考え方で
昔からどの国でも信じられた事柄なのではないでしょうか。
キリスト教が先進のものというヨーロッパの視点からは
アニミズムは原始的な未開社会のものと考えられていました。
アボリジニ、インディアン、サーミ、アイヌなどの先住民は
開拓者らによって侵略されてきました。
北欧でも昔はサーミ人が差別されることがあったようですが
今では先住民に対して敬意を表する動きも出てきています。
先日「アイヌ語」についての日本の記事を読み、
アイヌ語の背景にある意味がとても感慨深いものであることを知りました。
例えば、子どもが水をこぼした時、アイヌ語では
「そこに水が飲みたい神様がいたんだね」と表現するそうです。
あらゆる事象を人間ではなく神の意思だと考える価値観が表れています。
そして私が大好きな漫画「ガラスの仮面」の「紅天女」は
アニミズムをいかに演技で表現できるかが課題になっていました。
すべての事柄には精霊が宿るという考え方は、
日本にも古来からあったものです。
そんなことを心に留めながら、今回のアニミズムの展示画像をご紹介しましょう。
twig/小枝
seedpod/タネ
moon/月
wave/波
feather/羽
animal/動物
pebble/小石
shell/貝殻
リー・エデルコートさんは数年前に、ストックホルムの北方博物館で
ノース・ミーツ・サウス/North meets Southという展示会を行いました。
北欧とアフリカという、地理が両極端な場所でも
同じような素材感のあるものが好まれるという展示です。
アニミズムは、結局のところ、北欧、アフリカ、アジアの大部分で
常にアニミスティックな儀式を培ってきているのです。
水や火や木には神が宿っているという考えは、日本にも古来からあるものです。
新しい考えではなく、昔から培っている考え方を
また改めて見直してみるべき、ということを私たちに教えてくれる展示でした。
素材感のある展示品に囲まれながら、気持ちを集中してひとつひとつ鑑賞し
どんなものに私たちの心が動くのか、そういうことを感じさせる場所でした。
「あなたが今手にしているひとつひとつのモノをていねいに観察しましょう」
「すべてのモノには精霊が宿り、意味があります」
というメッセージが胸に深く刻まれた思いです。
リーさんが生まれた1950年の何もなかった世の中から
今はモノがあふれすぎて、環境を破壊していくことを懸念しています。
リーさんは、2050年の100歳まで生き抜いて、その行く末を見守ってみたいそうです。
100年生きるって、時代の移り変わりのすべてを見れることなのかもしれません。
そう考えると、長生きすることって何よりも面白い人生体験だといえますね。