SvD/Photo: Jan Almgren
(SvDから許可をいただいたので、記事に掲載されたポートレートを使用しています)
8月1日のスウェーデンの大手新聞社Svenska Dagbladet (SvD)に、
日本の男女平等についての記事がありました。
その記事のタイトルは
今回は、この記事について掘り下げてみます。
「彼女は、ガラスの天井を打ち破った日本のトップエグゼクティブ。
日本は男女平等において大きく遅れをとっているが、彼女は例外だ」
彼女とは、スウェーデンのグローバルヘルスケア社「ゲティンゲ/Getinge」日本法人の
代表取締役社長に2023年1月1日に就任した長澤悠子(ながさわ ゆうこ)さんです。
長澤さんは、キャリアと家庭の両立を目指していました。
日本では、女性が管理職に就きながら子どもを育てることはまだまだ困難が多く、
希望を叶えるためには、日本企業ではなく、
外資系企業で働く必要があると考えていました。
彼女が選んだ会社は、スウェーデンのグローバルヘルスケア社ゲティンゲ。
女性の社会進出が進んだスウェーデン企業を選んだことで
彼女が目指すキャリアと家庭の両立を、日本にいながら実現したのです。
「日本企業だったら、女性である私が社長になることは叶わなかったでしょう」
と長澤さんはいいます。
「 日本では、出産後もキャリアを続ける女性に対して偏見があります。
ここ何年もの間、私はたくさんの男性の同僚から質問を受けてきました。
私がどう対処しているのか、みんな不思議に思っているのです」
「日本の男性は家庭で何もしないことが多いです。料理も掃除もしない。
一方で、日本は男女平等の向上を目指し、多くの法律を整えてきましたが
それほど大きな変化は起こっていません」
スウェーデン新聞社SvDは、日本の男女平等についてこう語っています。
「女性経営者は、日本のビジネス界では珍しい存在である。
日本は、男女平等という点ではほとんど発展途上国並みなのだ。
例えば、世界経済フォーラムの2022年の男女平等ランキングでは
日本は最下位に近い116位である。一方スウェーデンは5位である」
2021年にスウェーデン外務省が発表した
日本の人権と民主主義に関する報告書では、
未だに家父長制とジェンダーの固定的な考え方があり
それが男女平等の障害となっている、と述べています。
女性に対する差別やセクハラは、
特に労働市場において頻繁に発生しています。
男女間の賃金格差が大きく、
女性が政治や公の場で過小評価されていることも指摘しています。
雇用されている女性の割合は増加していますが
働く女性のうちフルタイムで雇用されているのは50パーセント未満です。
第一子の出産後、60%もの女性が仕事を辞めています。
6歳未満の子どもを持つ女性の働く割合は、
OECD加盟国の中で最も低いのです。
早稲田大学経営学部の研究者兼准教授のジェスパー・エドマン氏は、
多くの日本人女性が子どもを持つことを控えているのは、
子どもを持つことで、自分のキャリアが終わる可能性が高いこと知っているからだ、といいます。
つまり、男女平等の欠如は、日本の出生率が減少するという
主要な人口問題の原因にもなる、とエドマン氏は言います。
長澤さんには、7歳と12歳のふたりの子どもと、
彼女を全面的にサポートしてくれる夫がいます。
「私の夫は日本人ですが、アメリカで育ち、アメリカの価値観を持っています。
私の勤務時間は朝8時半から夕方21時ごろまでと長いですが
その間に子どもの送り迎えをしたり、週に2~3日は在宅勤務をしています。
会社が、私が選んだ働き方を理解してくれているおかげで
仕事をしながら子どもたちと会う時間が取れています。
もちろん、従業員にも同じように対応しています」
とはいえ、キャリアと子育ての両立には
ベビーシッターのような外部からの助けも必要です。
しかしながら長澤さんは、従業員や他人にそのことを伝えていません。
「日本では、外部の助けをネガティブに捉えることが多いのです。
子どもたちにとって、世話をしてくれる母親がいないのは
かわいそうだと思われます。
だから私は、外部からの助けを受けていることを、
他人には言わず、自分の中だけに留めています」
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子どもを持つ女性でもキャリアを継続するのが当然のスウェーデンでは
女性たちが、仕事と子育てを両立するための
社会的なサポートや企業側の理解があります。
両親で子育てをするのは当然で、多少母親に負担がかかるとはいえ
女性がキャリアを諦めるという選択肢はありません。
10年ほど前、日本とスウェーデンの保育園の視察を企画したことがあります。
日本を訪れたスウェーデン人女性には小さな子どもがいたのですが
1週間自宅を離れて日本に滞在しました。
日本で会う誰もから「子どもは誰が面倒をみているの?」と聞かれました。
彼女は当たり前のように「夫が面倒をみています」と答えましたが
その返答に誰もが驚いたのを覚えています。
また、日本ではどの保育園に行っても母親しか見かけなかったので
彼女から「日本はシングルマザーが多いの?」と聞かれましたが
そんなことはありません。
それだけ、保育園で父親を見かける機会がなかったということです。
一方、スウェーデンを訪れた日本人は
街中でベビーカーを押す男性の多さに驚いていました。
10年前でこうでしたが、今では状況は変わったのでしょうか。
Photo: Magnus Liam Karlsson/imagebank.sweden.se
確かに今の日本では、子どもがいても働く女性が増えていますが
その多くがパートタイムではないでしょうか。
特に子どもが生まれてキャリアを手放してしまうと
正社員として再就職をするのが難しい状況です。
一方男性は、子どもが生まれてキャリアを諦めるというのは
ほとんど聞いたことがありません。
スウェーデンと日本のいちばん大きな違いは働き方です。
日本は、やはり労働時間が異常に長いのです。
5週間もの夏休みが取れるスウェーデンと
1週間程度の夏休みの日本。
当然のように子どもの送り迎えをするスウェーデンの父親たちと
夜遅くまで帰ってこない日本の父親たち。
いったいどうしてこんなに労働時間が違うのでしょうか。
働きすぎの日本企業の体制では、子育ては困難になり
子どもを持とうと思う気持ちになれません。
日本の男女平等に関してショックなのは、
世界経済フォーラムの2022年の男女平等ランキング116位であったのが
今年はさらに下がって125位になったことです。
これは、日本が変化しない間に、他の国が進化しているということです。
世界経済フォーラムの分野別で見ると
日本は「教育」(99.7%)と「医療へのアクセス」(97.3%)が、
男女間の平等をほぼ達成していました。
前年は100%で1位だった教育は、
高等教育(大学・大学院)就学率が加わったため、順位を47位に落としました。
一方、「政治参加」では138位と最も低いレベルに沈み、
「経済」でも123位にとどまりました。
女性の首相が誕生しておらず、
議員や閣僚に占める女性の割合が低いことが原因です。
また、同一労働における男女の賃金格差や、
女性管理職が少ないことも足を引っ張っています。
最近ふと気がついたのですが
日本には未だに男子校、女子校があります。
減ったとはいえ、まだ機能しているのは、欧米と大きく異なることです。
明治維新後に、西洋の教育制度が導入された際に
当時の西洋の教育制度は男女を別々に教育することが一般的であり、
日本でもそれを真似て男子校と女子校が設立されたそうです。
とはいえ今の時代、特殊な場合を除いて、
欧米で男子校、女子校はほぼありません。
近年では、日本でも男女共学が増えつつあり、
男子校や女子校の存在意義が問われることもあるといいます。
社会が多様化し、性別による役割分担が変化していく中で、
教育の方法やアプローチも変わっていく必要があります。
日本は男女平等に関して、いったい何を目指しているのか
来年の世界経済フォーラムの順位はどうなるのか
働きすぎの日本企業の体制はこのままでいいのか
いろいろと気になるところです。