© Carl Larsson Gården
日本とスウェーデンの外交関係樹立150周年記念イベントとして、新宿の損保ジャパン日本興亜美術館で開催されている「カール・ラーション展」に行ってきました。スウェーデンを代表するアーティスト、カール・ラーションの作品は今までに何度も見ていますが、日本で開催されているからか、いつもとは違う感覚で見応えのある展示を堪能することができました。
上記の水彩画はアザレアの花と妻のカーリンを描いたカールの代表作のひとつです。手前にアザレアの花を大きく描くことで、カーリンとの遠近感が現れています。その手法は日本の浮世絵を参考にしている、と作品の説明に書かれていたのが印象的でした。
カール・ラーションの作品は、ダーラナの自宅であったカール・ラーション・ゴーデン記念館、ストックホルムの国立美術館とティールスカギャラリー、西スウェーデンのヨーテボリ美術館に所蔵されており、そこから主だった作品が一堂に揃っています。
この規模のカール・ラーション展はスウェーデン国内では行われないと思います。中でもなかなかお目にすることのない、妻カーリンの作品が揃って見られたのは感動でした。カーリンはテキスタイルデザイナーとして有名ですが、実はカールと同様に王立美術学校/Konstakademienで学んだアーティストでした。カールとの結婚後は家庭に入り、家族の面倒を見ながら、ラーション一家のインテリアを作り上げることにエネルギーを注ぎました。
カールはカーリンの才能を知っていて、彼女の承認が得られないと作品を仕上げなかったと言います。家庭内のインテリアを、あの時代にあれだけ斬新に作り上げたカーリンの才能は計り知れません。もしカーリンがアーティストをつづけていたら、また別の人生があったのかもしれないと思わせるほどです。
とはいえ、あの時代に女性が活躍するのは難しかったので、カールとの家庭生活で才能を発揮したがために、カールとともに現在のスウェーデンデザインのいしずえを築いた、といっても過言ではないかもしれません。
リッラ・ヒュットネースでの暮らし
© Carl Larsson Gården
絵画を学ぶために渡ったパリで出会ったカールとカーリンは1883年に結婚し、1885年にスウェーデンに戻りました。1888年にカーリンの父からダーラナ地方にあるコテージを譲り受け、そこからリッラ・ヒュットネースでの暮らしが始まりました。
カーリンは、ほとんどのエネルギーを家族の世話と、この家を飾ることに注ぎました。家具のデザインをしたり、古い家具をペイントしたり、インテリアに合うテキスタイルを織ったり刺繍したり、カーリンはこの家を理想の家へと改装していきました。カールは家族と暮らす家での風景や子どもたちの様子を絵画のモチーフとして描きつづけました。子どもが病気の時の様子まで描いています。
リッラ・ヒュットネースでの有名な部屋は、何と言ってもリビングルームです。ここにカールとカーリンの理想のインテリアが見て取れます。明るい日差しの差し込む窓辺にはゼラニウムなどの花の鉢植えが飾られたリビングルームは幸せの象徴と言われ、多くのスウェーデン人がインテリアの参考にしています。
白い家具とブルーの生地のクッションがあしらわれたインテリアはグスタビアンスタイルと呼ばれ、その時代の新しい北欧インテリアとして多くの人々を魅了しました。
今でこそよく見かけるグスタビアンスタイルですが、1900年というまだ北欧デザインが確立されていない時代に、現在の北欧インテリアのいしずえとなる、その当時ではなかり斬新なインテリアを作りつづけたカーリンの才能には脱帽します。この時代に、マホガニー調の古い家具を、白や赤や青に塗るというカールとカーリンのアイデアに敬意を表したい思いでいっぱいです。
リッラ・ヒュットネースのリビングルーム
© Carl Larsson Gården
自宅を描いた代表的なカールの作品
© Carl Larsson Gården
カールは自宅のインテリアを背景に、子どもたちをモデルにした絵画を数多く描いています。定規を当てたようにまっすぐな線で正確に描いたインテリアは、太陽の光のような明るい色彩で描かれています。カールの作品はまるでインテリア誌のように洗練され、細かい部分まで詳細に描かれています。この構図が北欧インテリアの参考として、今でも多くの人々を魅了しています。
最後に、ウェブサイトで見つけた貴重な映像をシェアします。この映像は展覧会でも見られます。
カール・ラーション展は12月24日まで開催されています。