北斎の影響を受けた、ムンクと同時代のノルウェーの画家ニコライ・アストラップ展

どことなく「ムンクの叫び」を連想してしまうこのアートは

ムンクと同時代であるノルウェーの革新的なアーティスト

ニコライ・アストルップ/Nikolai Astrup(1880-1928)の

「春の夜と柳」という作品です。

自然界を北欧神話のように描くアストルップのこの作品は、

芽吹いた柳の木が北欧の妖精トロールになり、

地元の人々から「アイスクイーン」と呼ばれる

湖の向こうに見える雪山を、横たわる女性のように擬人化しています。

グレイ、白、さび色のシンプルな色調は、

冬が終わろうとしている季節を

この世のものとは思えない、荒涼した風景として描いています。

 

海外ではあまり知られていないアストルップですが

自国のノルウェーではムンクと同じくらい有名です。

自分が育ったノルウェー南西部の緑豊かな景色と

その地域の伝統的なライフスタイルを強烈な色彩で表現した、

個性的で革新的なアーティストです。

アストルップの作品には、その土地の神秘性や

独特の空気感や光が込められています。

 

アストルップが版画で描いた「春の夜と柳」には

「3月の朝」というタイトルの、同じ構図の作品もあります。

「春の夜」と比べると、「3月の朝」は空や湖の色が明るい色で描かれています。

北欧の3月は、第5の季節「スプリングウィンター」と呼ばれ、

あたりは雪が積もったままだけど、さんさんと太陽が照りはじめ

真っ白な雪景色にまぶしい青空が広がる

ワンダーランドのように美しい季節です。

「3月の朝」は、その様子を色彩で見事に表現しています。

アストルップも多くの欧米や北欧のアーティストと同様に

明治維新後に西洋を席巻したジャポニスムに魅了され、

北斎や広重の浮世絵に強い影響を受けています。

同じ構図の版画に絵具の色を使い分けることで、

異なる時間帯や季節を表現した作品も多数あります。

アストルップはムンクと同様に、木版画の可能性を革新しました。

とはいえ、人間性や死に対して多大な関心を持っていたムンクとは異なり

身近な自然やノルウェーの伝統行事などを好んで描いていました。

この作品は「春と望み」というタイトルで

地元の人々から「アイスクイーン」と呼ばれた

ノルウェー南西部にあるヨルスタの山々を

半抽象的な形で、女性のセルフポートレイトに見立てて描いています。

アストルップにとってヨルスタの山々は

伝説やおとぎ話などのインスピレーションの源となりました。

 

ストックホルムの中央駅から出ている

トラムの終点Waldemarsudde/ヴァルデマーシュッデにある

Prins Eugens Waldemarsudde美術館では、5月29日まで

ニコライ・アストルップ展「ノルウェーの自然をみつめて」が開催されています。

生まれ育った土地を作品で表現することにこだわったアストルップの

感性の豊かさや多彩性を感じることができる

油絵と木版画を中心に約100点の作品が展示されています。

 

私にとって印象に残った作品を2つご紹介します。

ひとつめは「ガーデンでのバースデーパーティ」というタイトルの油絵で

家族との暮らしを描いています。

アストルップは家族との暮らしを描いた作品も多く

スウェーデンの有名な画家、カール・ラーションを思い起こさせます。

 

2つめは「ミッドサマー」というタイトルの油絵です。

ノルウェーのミッドサマーでは焚き火をするのだと、

改めて知った作品です。スウェーデンではメイポールのまわりで踊り

火を焚くことはないので、印象に残った作品でした。

さまざまな構図のミッドサマーの作品がいくつか展示されていました。

 

このようにアストルップは、ノルウェーの暮らしや景色を主に描いていて

ノルウェー人にとっては感慨深い作品が多いのだろうと思わされます。

北欧に暮らす私にとっては、どこかホッとする北欧の景色や

浮世絵に影響を受けた版画からは、日本を感じさせ

北欧神話のような不思議な表現を見ることで、

夢の世界へと連れてってくれるような感覚になりました。

機会がありましたら、ぜひ展示会に行ってみて下さい。

ニコライ・アストルップ展「ノルウェーの自然をみつめて」

 

Scroll to Top