北欧デザインも、大手ブランドのオーナーがあれこれ変わったり、吸収合併になったり、倒産の危機にあったり、かなり厳しい状態が続いていますが、このところ、イケアが巨匠デザインを救っている(?)のが目に付きます。1970年創業の人気テキスタイルグループ、10グルッペンをイケアが買い取るという話しが進んでいるようです。毎年のように新作を発表し、ユニクロにも採用され、近年はスニーカーなどとのコラボを積極的に発表していただけに、ちょっと驚きの展開です。
当ウェブサイトを開設し、メールマガジンを書き始めた2002年12月2日第2号は、10グルッペンについてでした。1970年、ブランド名の由来である10人の若いデザイナーが集まり、10グルッペンが発足しました。当初、彼らのデザインは奇抜で商売向きではないと、スウェーデンのテキスタイル企業に受け入れられませんでした。そこで彼らは、デザインから商品としてお店に並べるまで、全てを自分たち自身でやってしまおうと決意し、実行しました。その後 、その新しい感覚のデザインは世間に広く受け入れられ、45年間も支持され続けてきたのです。とはいえ、それぞれのデザイナーは自分の道を極めるために10グルッペンを離れ、3名のデザイナーで続けていました。その3名のデザイナーも巨匠揃いで、中でもTom Hedqvist氏はベックマンデザインスクールの校長を経て、現在はヨーテボリのRöhsska museetの館長を務めています。
10グルッペンは新しいデザイナーを採用することはなく、3名のデザイナーで毎年新作を発表していました。その3名もすでに60歳を超え、それぞれの道を歩んでいくことになったのでしょう。10グルッペンには相当量のアーカイブパターンがありますので、イケアが引き継いだ後も、ブランド名を残し、優れたスウェーデンデザインとして世界に発信して下さることを願っています。
さて、もう1名イケアに救われた(?)のが、ミッドセンチュリーの巨匠、オーレ・エクセルです。イケアはこの春に、全世界でオーレ・エクセルシリーズ「Onskedröm/夢物語」を発表しました。 私も今まで相当頑張ってオーレ・エクセルを日本に向けて発信し続けていましたが、なかなか浸透するまでにはいきませんでした。しかしイケアの商品化で、認知度はずいぶんと高まったのではないかと思います。
北欧デザインはミッドセンチュリーに素晴らしいデザインが次々と生まれました。今でもそのデザインの恩恵で北欧デザインが世界的に受け入れられていると思いますが、今は巨匠デザイナーたちの次世代が担うようになり、その価値を維持していくのに苦労している人が多いと聞きます。そんな中でイケアによる救世はとても有り難いことではあると思います。一方、なんでもイケアになってしまうのも残念な気もしています。それだけ力のある企業が他にないということですが、私もスウェーデンデザインのプロモーション、微力ですが、引き続きコツコツ続けていきたいと思います。